2014年1月19日日曜日

ホルモン補充療法中に黄体ホルモンを内服しても消退出血がないときは?

女性アスリートの無月経に対してホルモン(エストロゲン)補充療法を行っていると、ときに黄体ホルモンを内服しても消退出血がなかったという報告を受けることがある。
すなわち、日々ディビゲル®やル・エストロジェル®のようなエストラジオール経皮吸収剤を塗ってもらいつつ、1〜2ヶ月に1回、10日間程度、黄体ホルモン(プロゲストン®やデュファストン®)を内服してもらい、「生理」をこさせるわけだが、当初その出血が必ずあったアスリートも、ときに出血が全くないことがあるというわけである。

そもそも黄体ホルモンを周期的に内服する目的は、エストロゲンだけが作用し続けると増殖しっぱなしとなる子宮内膜をときどき「洗い流す」ことによって、子宮内膜増殖症や子宮体癌を予防することにある。「黄体ホルモンを伴わないエストロゲン単独投与(unopposed estorgen)」は子宮体癌のリスク因子なのである。
黄体ホルモンを内服しても出血がないということは、内膜が大して厚くなっていないからと言えるので特に心配には及ばないが、内服している本人からすると不安に思うこともあるだろう。毎月の黄体ホルモン内服では消退出血がおこりにくいので、2ヶ月程度と少し間をあけて内服してもらうことでなるべく確実に出血が起こるように配慮することも多い。
内膜が厚くならないのはディビゲル®の効きが悪くなったと言うよりは、自前のエストラジオール分泌がほとんどない場合に起こりがちで、やむを得ないともいえる。そのために補充をしているのだから。
ただ黄体ホルモン内服の間隔を2ヶ月以上にすることの(子宮体癌予防に関しての)安全性」は、はっきりしていないので、たとえ出血がなくても少なくとも2ヶ月おきには黄体ホルモン内服を行っておくことをおすすめしたい。
そのうえで主治医と相談の上、採血を行って血中エストラジオール値を確認したり、子宮内膜の厚さを確認したり、エストラジオール製剤の種類を変更したり、何らかの対策をとるのがよい。

2014年1月17日金曜日

ヤーズの血栓症リスクについて

本日、厚生労働省が低用量ピル「ヤーズ配合錠」(バイエル薬品)について、2010年11月の販売以降、副作用とみられる血栓症 で3人が死亡したと発表した。利用者は延べ18万7千人にのぼり、バイエルに対し、添付文書に警告欄を設けて注意喚起するよう指示した、という報道があった。
現在ヤーズを内服しているため、心配になっている女性アスリートもいると思われる。

すでに昨年末に日本産科婦人科学会が低用量ピルの血栓リスクについて見解を発表している。
要点は、以下のとおりである。
・低用量ピルを服用していない女性の静脈血栓症発症のリスクは年間10,000人あたり1-5人であるのに対し、低用量ピル服用女性では3-9人
・静脈血栓症発症により、致死的な結果となるのは100人あたり1人で、低用量ピル使用中の死亡率は10万人あたり1人以下
・低用量ピル内服中に以下の症状を認める場合には医療機関受診の必要あり
A:abdominal pain C:chest pain H:headache E:eye / speech problems S:severe leg pain

私も現時点では上記のリスク評価に基づいて、メリットとリスクを勘案して処方をしている。
若年で非喫煙のやせ型のアスリートは一般より血栓リスクは低いと考えられるが、海外遠征時や脱水状態時などは、特に気をつけるべきと思われるので、処方時に水分摂取を意識するよう指導している。
また服用開始の最初の3ヶ月、特に最初の1ヶ月に血栓リスクが高いことも知られているので、数ヶ月以上内服を継続している女性にとってはリスクは低いと伝えている。

さて、昨年末の時点でヤーズの国内死亡例は2例までは判明していたはずだが、3例目が報告されたことから本日の厚労省の注意喚起に至ったものと考えらる。
ヤーズが他の低用量ピルに比べて血栓リスクが高いという疫学報告は、肯定されたり否定されたり一定の結果を見ていないが、発売後比較的早期に3例目の死亡報告が出たことからも、多少リスクは高い可能性がある。
一方、特に低体重の長距離ランナーにとって、ヤーズはエチニルエストラジオール量が少なく(20μg)、軽度の利尿作用を有するため、飲みやすく受け入れがいいというメリットもある。
したがって私自身、特に長距離ランナーに低用量ピルを処方する場合にはヤーズを推薦してきた。

報道に接してヤー ズに不安を感じる場合には、現時点での代替案としては、エチニルエストラジオール量が同じく20μgと少なく、(もし骨密度増加作用も期待している場合には)より有効である可能性のある 「ルナベルULD」という低用量ピルに変更する、という手がある。このルナベルULDは昨年秋に発売された。
低用量ピルにある程度体が慣れているアスリートにとっては、問題なく移行できると思う。


追加: ヤーズの発売元のバイエル薬品からも以下の注意喚起が公表された。
医療関係者向け ・ 患者向け