ここでは、低体重、低エストロゲン、低LHタイプの無月経アスリートを対象とした議論をしようと思う。
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)などの体質を有した、低エストロゲンでも低LHでもないタイプの無月経のアスリートも少なからず存在するが、ちょっと別。
いわゆる長距離ランナー型、「女性アスリートの三主徴」型の無月経に対するホルモン療法の話である。
私自身は、更年期女性に対するのと同じホルモン補充療法(HRT)を基本としながらも、疲労骨折を繰り返して骨密度上昇が急務であるアスリートに対しては、そのエストロゲン作用の強さから骨密度増加効果を期待して低用量ピル(経口避妊薬)を処方することもあった。
現在も多くのドクターが、無月経にアスリートにピルを処方しているようである。
ただし、最近は全くといっていいほど処方しなくなった。もっぱら経皮エストラジオール製剤(エストラーナテープ®やル・エストロジェル®)に1,2ヶ月に1回8日間連続のデュファストン®内服、のメニューである。
では、HRTがピルに対して優れている点はなんだろうか。
まず、特に低体重のアスリートにおいては副作用の少なさだ。
ピルを販売する製薬会社のMRさんたちは、「体重増加の副作用は証明されていない」と言うが、様々な年齢・体格のピルユーザーをひっくるめればそうなのかもしれないが、低体重かつ低エストロゲン状態のアスリートにとってはピルによる「エストロゲンショック」はたぶん相当のものなのだと思う。
現に、急激なむくみと食欲増加による体重増加のせいで、多くの長距離ランナーや指導者がホルモン療法嫌いになってしまっているのは悲しいことである。
もう一つは、骨への作用においてピルがIGF-1という成長因子を抑制して骨形成にむしろ不利になる可能性があるのに対して、HRTはそのようなことがない点だ。骨密度増加効果を期待してリスクを冒してピルを処方するメリットがなくなった。
最後に、エストラジオール製剤を使用しているアスリートに対しては、エストロゲン不足が解消されているか、過量になっていないかを採血で秤量することができる。結果により投与量の調整が可能なのだ。ピルではこれができない。
では、これまで別の病院で低用量ピルが継続的ないし一時的に投与されているアスリートで、本人が特に体重増加などの副作用に困っていない場合も、HRTに変更すべきか?
私の場合、元々低エストロゲン、低LHタイプの無月経である場合には、なるべくピルからHRTに変更を勧めている。