2011年3月22日火曜日

ピルとドーピングコントロール

ピル(最近は婦人科医の間ではOCということが多い)は経口避妊薬という扱いから、徐々に月経困難症や子宮内膜症の治療薬としての処方が増えてきている。現に、ルナベル、ヤーズという2種のOCが月経困難症の保険病名のもと、保険収載されている。

以前、私は臨床スポーツ医学という雑誌の「アンチドーピングのための頻用薬の知識」という特集に以下のように書いた。



1998年の競泳米国五輪選考会において、ある女子選手が蛋白同化剤であるナンドロロンの使用によりソウル五輪チームから除名され2年間の資格停止処分を受けたことがあった。選手側は避妊のために使用していたピル(OC)が検出されたと反論し、米国五輪委員会に対して訴訟を起こしたが、結局処分はそのままなされた。
OCはエチニルエストラジオールとプロゲスチンの2成分から成る合剤である。このうちプロゲスチンは副作用であるアンドロゲン作用を減弱させることを焦点に第1世代から第4世代まで開発がすすんできている。このうちアンドロゲン作用は第1世代プロゲスチンがもっとも強く、じっさい第1世代プロゲスチンであるノルエチステロンは体内でナンドロロンの代謝物の19-ノルアンドロステロンに代謝されることがあり、分析機関から違反結果と報告された場合、陽性と見なされる。
前述の米国競泳選手はこうした理由により、違反結果となった可能性がある。実際にかつてはノルエチステロンが禁止物質リストに掲載されていたこともあるが、現在はリストからははずれている。ただしノルエチステロンを含むOCを内服している場合には、ドーピング検査の際に念のため申告することがすすめられている。
ノルエチステロンが含まれるピルは、ソフィアA®(これのみが中用量)、オーソM-21錠®、オーソM777-21錠®、シンフェーズT28®、ノリニールT28®などであり、子宮内膜症治療薬として保険収載される予定のルナベル®も同様である。


これは決してルナベルはドーピング禁止物質であるということを述べたつもりはないのだが、そのように誤解した選手、医師もいたようだ。もちろんTUE申請も不要である。
ドーピング検査のときの「現在摂取している薬物」のところに記載した方がいいというだけである。
ただ、アスリートに対して月経困難症目的に処方するなら、今後はヤーズの方が圧倒的に優れていると思われる。エチニルエストラジオール量が6割近くに減り、むくみ、体重増加、吐き気などの副作用が激減している。
現に実業団長距離選手が「月経前症候群も月経痛もなくなり非常によい」と高評価を与えているし、その他の(アスリートでない)一般患者からも好評を博している。参考にしてほしい。

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