さて、無月経が長期化した場合、将来妊娠できるかどうか(「妊孕性」という)は大丈夫?と誰もが心配する。実はこれについての解答は「まだわかりません」である。
昭和39年の東京五輪に出場した女子選手を後年調査したところでは、妊娠回数や分娩数に一般女性との差は特にない、という報告が出ているが、なにしろ当時は女子長距離走種目や新体操などは存在しない時代である。無月経だった選手の割合も不明。だから、現在無月経に陥っている女子ランナーの将来の妊孕性を保証するものでは全くない。
幸いにして、実際には現役を引退した女子選手の多くが、妊娠・出産に至っている。土佐礼子選手や弘山晴美選手が競技の一線から退いて間もなく妊娠のニュースが入ってきたことも「安心材料」と言えるだろう。ある実業団の監督も「やめて1年くらいすればみんな生理は戻ってきてるよ」と言っていた。
多くの「軽症例」(例えば25歳頃までは月経があり、マラソン練習に移行して初めて月経が止まった場合など)では、激しい練習からの離脱、体重の増加、摂食量の増加により容易に排卵が回復してくるものと推測される。
ただし例えば、中学時代にほんの数回しか月経がなくそのまま高校以降20歳をすぎても無月経、という(ほとんど原発性無月経に近い)ランナーの排卵を調節する視床下部・下垂体の性中枢は本来成熟すべき思春期の時期を「逃して」しまったわけで、今後競技をやめたり体重が増えたりしたからと言って、そう簡単に成熟を遂げるとは考えられない。
適切な比較かどうかはわからないが、食行動の異常と極端な体重減少を特徴とする神経性食思不振症という無月経患者の場合には、体重がある程度増加してきてもなかなか性中枢機能が回復せず、排卵が再開するまでには数年単位のホルモン療法が必要となってくる。
こうした長期無月経の女性の子宮を超音波で見ると、極端に萎縮していることがわかる。通常6-7cmある子宮長が3-4cm程度しかないのが普通だ。
したがって、無月経のランナーがどれくらいいるのか、また長期間無月経であった女子ランナーがいつ頃排卵を回復しているのか、不妊治療(排卵誘発治療)を必要としなかったのか、妊娠・出産に至っているのか、などについて実業団チームの協力を得て、日本陸連としても調査を開始しようとしているところだ。
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