2012年5月16日水曜日

ヤーズの血栓症リスクは他のOCとかわらないのか

エチニルエストラジオールの含有量が少なく、ドロスピレノンという利尿剤類似のプロゲスチンを含有していることから、アスリートへの処方に向いていると思われるOC(経口避妊薬・ピル)、ヤーズ®。ただ血栓症のリスクが高い可能性があり、アスリートへの処方に慎重にならざるをえない、と1年前に記載した。
その後、他の疫学研究報告を検討してみたが、いまだヤーズ®の血栓症リスクは他のOC以上のものかどうかはっきりしない気配である。
もともと、ドロスピレノン含有OCの血栓リスクが高いという警告がFDAから発せられたのは、質の高い2つの「症例対象研究」で同程度に高い相対危険率が算出されたからであった。
これを否定するためには、より「証拠力」の高いと言われる前向きコホート研究で、ドロスピレノン含有OC服用者と他のOC服用者で血栓症をおこす頻度がかわらないことを証明せねばならない。
じっさい、ヨーロッパの14万人の女性を対象にした前向きコホート研究で、ドロスピレノン含有OCと他のOCによる心血管系の副作用リスクはかわらないという結果が示されていた(Contraception, 2007)のに加え、米国でも4万人以上を対象とした同様の研究で血栓リスクはかわらない(Obstetrics & Gynecology, 2007)という結果が存在する。ヨーロッパの研究は最近もフォロー試験が続いており、学会抄録を見る限りドロスピレノン含有OCのリスクはやはり証明されていないようである。
しかし昨年のFDAの注意喚起をよく読むと、やはりこれらの市販後調査の結果と2つの症例対象研究の結果は「conflicting」としながらも、血栓リスクの可能性を無視できないとする立場をとっている。
この一年でより質の高い前向きコホート研究が登場するのかと待ってみたが、今のところはまだ論文として発表はなされていない。
したがって、ヤーズ®の血栓リスクをとりまく状況は昨年とあまり変わってはいない。ただし僕自身も処方を重ねるにつれ、「吐き気や体重増加・浮腫などの副作用が少ない反面、少量不正出血の頻度が高い」というヤーズ®の特徴がはっきりしてきたように思うので、これらの利点・欠点を個別に勘案しつつ、処方薬を決定していこうと考えている。

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