平成20年に新潮選書から発刊されたこの本を、タイトルに惹かれて購入したのが2年前。以来ずっと「読むものがなくなったとき用に」毎週金曜日のみ勤務する病院のロッカーに入れていたが、なかなか食指が動かず、寝かせたままとなっていた。
それが、昨日の当直中に突然気になって手に取るや、今日にかけて一気に読んでしまった。これが実に面白かった。
著者の川口マーン恵美は大阪生まれだがドイツでピアノを学び現在もドイツ在住。ベルリン・フィルのかつての楽員たちが、フルトヴェングラーとその後継者となったカラヤンについて、きわめて率直に尊敬と愛憎を語っていく。
自分が音楽に没入し張りつめた緊張感をもって指揮台に上がったフルトヴェングラーは、やはりその精神性をもって楽団員の敬意を集めたようだ。一方、カラヤンに対する評価は様々である。過重な録音スケジュール、ビデオのアフレコ撮りの強要、本人の打ち解けにくさに辟易しつつも、音響美に対する飽くなき追求、完璧主義によりベルリン・フィルの全盛期を作り上げたことには楽団員も理解と誇りをもっているようだ。それだけに晩年のベルリン・フィルとカラヤンの不協和音は残念であった。
この著者は老年期にさしかかった楽団員達を気持ちよく語らせるのが実に上手である。女性ならではと思わざるをえない。また巧まざるユーモアを交えたり、他の楽団員のコメントを振り返りながら話をすすめたり、読者に対するサービス精神も旺盛だ。実に読みやすい。
フルトヴェングラーとカラヤン。対照的ではあるが、どちらの美点も臨場感たっぷりに語られるので、二人の演奏をいくらでも聴きたくなってしまう。というわけで、すでに2日で以下の6作品を聴いてしまった。
フルトヴェングラー:べートーヴェン第9交響曲、シューマン第4交響曲、ブルックナー第8交響曲、ワーグナー作品集
カラヤン:ベートーヴェン第9交響曲、マーラー第9交響曲
ちなみにフルトヴェングラーの演奏といえば思い出がある。大学生の頃、リクエスト番組で何とも重厚で悲劇的、心が揺さぶれられるような10分程度の管弦楽小品が流された。指揮がフルトヴェングラーで曲名は「タウリスのイフィゲニア序曲」と聞きとれた。この演奏が収録されているCDを探すこと15年、「フルトヴェングラー:ポピュラー管弦楽曲集1」にこの演奏を見つけ即購入。自らを奮い立たせたいときの愛聴曲となっている。
なぜ突然、積ん読状態だったこの本を読む気がおきたか不思議だが、第九などの重厚なドイツ音楽に聴き入りたくなる年末の雰囲気が、この書の題材にぴったりだったからなのだろう。
0 件のコメント:
コメントを投稿