先月発刊されたばかりの瀬古利彦著「すべてのマラソンランナーに伝えたいこと」を読んだ。あっという間に読める。内容も突飛なことはないし、軽く「何てことはない本だ」と流すこともできるかもしれない。特に瀬古さんの現役時代を生で知らない人にとっては。
しかし、はじめてマラソンをテレビで見たときから瀬古さんが唯一のヒーローであり、小学校ではじめてマラソンを走ったときから瀬古さんを真似しようとしていた自分にとっては、この本のいろんな部分に「反応」してしまう。
オリンピックとは縁がなかった悔しさは随所に表れているから言うまでもない。さらにタイムについても、条件が良くペースメーカーがつけば自分は2時間05分台で走れたというところ、なるほどと思う。もっと記録は出せたはずという自負があるのだ。ただし中山竹通は04分台で走れただろう、と書いているからよほど「後生畏るべし」だったのだろう。強さが身にしみていたと思われる。
指導者としては必ずしも結果を残せたとはいえなかった瀬古さん。自分でも「教えるのが好きだとはいえなかった」「現役時代のプライドが抜けきれなかった」と率直に反省している。ただしここでも、渡辺康幸は自分の言うことに必ずしも従わなかったが、全て受け入れてくれた国近友昭は2時間07分台で走って五輪代表になった、ということを成果としてさりげなく誇っているところが、テレビ解説で見る瀬古さんらしいところでほほえましい。
さて市民ランナーとして直接役立つノウハウは書かれているだろうか?
「車の運転も自転車も控えた方がいい」「練習では時計はするな」などというアドバイスは極端かもしれないが、案外私にはピンとくる。「お菓子を食べている選手には負けないと思った」というエピソードも「修行僧」と言われた瀬古さんの面目躍如である。一貫しているのは「普段から粘り強く取り組むこと、継続すること」のすすめだ。これが帯コピーの「折れない心」を作るのだという。王道のアドバイスすぎて、ひねりも面白みにも欠けるが、瀬古さんらしい。
最後に。これは編集者・出版社の問題だろうが、「まとめの文」や「役に立ちそうな内容の文」がいちいち青字になっているのが気に入らない。学生がテスト対策でマーカーをひいたあとか、お笑いタレントの「キモ」セリフを赤字で強調するテレビ字幕みたいで、見苦しいうえに読みにくい。安易なわかりやすさ、俗への迎合、というのは瀬古さんの美学にも反するのではないか。
1 件のコメント:
私もこの本を読みました。
「マラソンの真髄」も読みました。
現役時代は知らないのですが、自身が走り始めてから、動画で瀬古さんの走りを見てファンになりました。あの上下動の少ないフォームに憧れます。
マラソンに打ち込むストイックさはおいそれと見習えるものではありませんが、故障と向き合う姿勢は参考にしたいと思いました。私もよく痛めるので…。本文で挙げていた6つの故障のうち4つは経験済みでした(笑)
青字は私も気になりました。何か押し付けられているようで嫌でした。
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