年に一度、4大学の産婦人科が集まって開催される研究会の幹事会が新宿で行われた。遠路はるばる1時間半以上。予定議題に関する会議時間はわずか15分程度。もはやわざわざ本研究会とは別に半年前に集まって幹事会をする意義はないのでは?と意見を出したところ、賛同を得て来年からの幹事会中止が決まった。
情報伝達と少々の打合せなら誰もがメールでできる時代。10年以上前につくられた「会則」に縛られる必要ももはやないだろう。時間の労力の節約になって、本当によかった。
ちょうどそのときリュックに入れていたのがこの本、横山信弘著「脱会議 今日からできる!仕事革命」。読み始めたのは幹事会中止を決めてからだったが、その通り、と膝をうつところの多い内容で、あっという間に読み終えた。
病院にも「ダメな」会議は多い。各科の医長を集めて院長から資料の内容を読み聞かせられる「連絡会議」はその典型。滅多に討論や話し合いになることはない、一方的な伝達。内容は配付資料を読めばわかる。今年、病棟医長をはずれてこの会議に出なくてよくなり、本当にホッとしている。
自分の科で行われているカンファレンスも見直す必要がありそうだ。会議時間は分単位で決めるべきで最長60分、という原則を超えた朝カンファ。確かに中だるみするのは否めない。時間短縮を考えてもよさそうだ。
浮いた時間とパワーを現場復帰、顧客対応に使え、とこの本にあるが、病院ならば、実際の診療の充実に当てよ、ということになる。その通りだと思う。
2012年6月28日木曜日
2012年6月24日日曜日
インフォームド・チョイス〜考え方と裏事情
学生からこんな質問を受けた。
友人の母親51歳が卵巣腫瘍で開腹手術することになりました。
腫瘍のみか、子宮卵巣卵管全摘出するか迷っているそうです。
全摘出する場合に、 術後に体調異常などの影響を心配しているのですが、 具体的にどのような影響がありますか?
どうやら手術を前にして術式決定における「インフォームド・チョイス」を迫られている場面のようである。こういう場合の合理的な考え方をこの医学生には知っておいてもらいたくて、ついこんな感じの長文の返信をした。
友人の母親51歳が卵巣腫瘍で開腹手術することになりました。
腫瘍のみか、子宮卵巣卵管全摘出するか迷っているそうです。
全摘出する場合に、
どうやら手術を前にして術式決定における「インフォームド・チョイス」を迫られている場面のようである。こういう場合の合理的な考え方をこの医学生には知っておいてもらいたくて、ついこんな感じの長文の返信をした。
ご質問は、「腫瘍のみ摘除」と「子宮・付属器(卵巣卵管)全摘除」 のどちらがいいか、ではなく、「子宮・ 付属器全摘除した場合の術後の体調への影響」ですね?
手術が(合併症なく)順調に終わった場合は、 術後の体調への影響は、患者が閉経しているかどうかによって大きく異なるでしょう。
閉経していないのならば当然ながら術後に急激な血中エストロゲン濃度の 低下がありますので、それに応じた急激な卵巣欠落症状( いわゆる更年期障害)がおこりうるでしょう。 ただ同じようにエストロゲンが低下しても、症状の強さ・種類・ 持続期間には大きく個人差があります。Hot flushはほぼ必発として、その他どこまで症状が出るか、 その場になってみないとわからない点があります。どの程度の卵巣欠落症状が出るか本人に予想させる、というのはなかなか酷なことですね。ただしこれはいずれも「そのうちおさまる症状」(可逆的な症状) ではあります。
一方すでに閉経しているのであれば、血中エストロゲンの低下「 ショック」はほとんどないことになり、 体調への急激な影響はないといっていいでしょう。
ここまでの話はいずれも両側「卵巣」を突然失った場合の副作用についての話です。 子宮が失われることによる体調への影響はというと?・・・ ほとんどない、ことになっています。
さて、不幸にして手術の合併症があった場合。 子宮摘出による影響はないと書きましたが、 こうした手術の合併症は、 手術が大きくなればなるほど起こりやすいので、 子宮摘出を含めた方が( もともと確率はそんなに高くないとはいえ)確率は増えます。 例えば、尿管損傷、膀胱損傷、腸管損傷など。 さらに開腹手術につきものの合併症、腸閉塞とか血栓症とか、 こういうものを起こすと著しく術後の体調に影響します。 しかもこれらの中には「そのうちおさまるとは限らない」 不可逆な症状もありえます。例えば、 仙骨付近の神経損傷による術後下肢麻痺とか・・・・( 実際話を聞いたことがあります)、 極端には出血多量による死亡とか・・・。
というわけで、まとめると、 手術が順調に終わる限りは体調への影響はさほどない、 または一時的なものである、と言えるでしょう。
で、腫瘍のみ摘除と子宮・付属器全摘除のどちらがいいか、 は以上の話だけでは決められないことはおわかりですね?
なぜならそれぞれの治療法の利点とリスクを天秤にかけないといけ ないからです。ここまでの話は片方(または両方)の治療法の「 リスク」だけの話です。利点は?
これは問題の腫瘍に悪性の可能性がどれくらい見積もられているか(悪性ならば子宮・付属器摘除が標準術式なので、その治療の「利点」が増す)、 子宮にすでに異常所見があるかないか(例えば筋腫があるならばついでにとってしまうメリットがあるかも)、 あるいは閉経しているかどうか、月経随伴症状が強いかどうか(閉経前で月経痛が強いならば子宮がなくなって月経がなくなるメリットが大きい)、 などによって当然かわってきますので、一概にはいえません。
一般には、 患者にこれらの利点とリスクを客観的にオーバービューさせるのは なかなか難しいので、医師の側がそれを代行し、 どちらの治療がお勧めなのかを決めて患者に提案する、 ということが行われます。 これが患者の意見を訊かれているとすると・・・見積もりがちょうど拮抗しているのでしょう。 拮抗していないのであればどちらかの術式が「推奨」 されているはずですから。
あるいは・・・。医師側からすると、利害得失がある程度拮抗している場合、本人に決めさせておけば仮に更年期症状が強かったとか、(不幸にして)片方の術式につきものの術後合併症が起きた、という場合、「だってあなたがこっちの治療法がいいって決めたんだもん」と、はっきり本人に言わないにしても言外に匂わすことで責任を一部患者へ転嫁できる巧妙な作戦・・・とも言えるかもしれません。
従来の医師主導の治療法決定に対して(近年広まっている)インフォームド・チョイスという考え方、すなわち患者が術式を決める最終的な権利を有する、というのは総論的にはもっともなのですが、チョイスばかりに力点を置くと「結果」を全て医師が引き受けるのはしんどいので患者にも肩代わりしてもらおう、と安易な方に流れます。インフォームド・チョイスの最大の利点は、インフォーム、つまり(患者が自分でも治療法を決定できるほどの)情報提供、および決定までの思考過程の可視化に他なりません。
こんなところです。よろしいでしょうか?
2012年6月23日土曜日
日本学生個人選手権は8位に終わる
岡部文子(2年)の出場した個人選手権を見に行ってきた。平塚の競技場は自分が学生の頃、関東インカレに出場して以来18年ぶりではなかろうか。
冬場の20kmレースでは学生2、3番の成績を残しており、第一人者の岡田選手(立教大)が不出場だけに、まずは3位以内、あわよくば優勝を、との期待をかけていた。
しかし、優勝した前田選手(立命館大)に速い飛び出しに無理してつこうとしてペースを乱し、序盤こそ2位集団をリードしたが、2回の警告を受けて完全にペースダウン。5位に下がり、1周2分かかる我慢のレースが続く。8000m過ぎに5〜8位集団に一気にかわされ9位に落ちるも、一緒に熊谷で練習する播磨選手(中大)が3回の歩型違反をとられて失格。何とか8位を確保した。
インカレに比べて涼しかったにも関わらず、49分36秒01の凡タイム。まあこの2ヶ月、解剖実習等でなかなか練習時間が確保できず、調子もジリ貧だったからやむを得ないところ。
夏休みにしっかり練習して臨めるであろう日本インカレで雪辱を果たしてほしいところである。
それにしても今日の競歩審判、最後の写真のボードの通りで警告の出しまくり。失格が6人ということは出場者の2割という異常事態である。2レーンに立って正面から見るのみで警告を出している様子に、一緒に観戦した競歩指導者達も一様に疑問を呈していた。審判によって見逃されたり厳しく取られたり、というところが走種目に比べてフェアでない、わかりにくい、すっきりしない種目という印象を与えてしまう。これもなかなか競歩に人気が出にくい所以ではなかろうか。
冬場の20kmレースでは学生2、3番の成績を残しており、第一人者の岡田選手(立教大)が不出場だけに、まずは3位以内、あわよくば優勝を、との期待をかけていた。
しかし、優勝した前田選手(立命館大)に速い飛び出しに無理してつこうとしてペースを乱し、序盤こそ2位集団をリードしたが、2回の警告を受けて完全にペースダウン。5位に下がり、1周2分かかる我慢のレースが続く。8000m過ぎに5〜8位集団に一気にかわされ9位に落ちるも、一緒に熊谷で練習する播磨選手(中大)が3回の歩型違反をとられて失格。何とか8位を確保した。
インカレに比べて涼しかったにも関わらず、49分36秒01の凡タイム。まあこの2ヶ月、解剖実習等でなかなか練習時間が確保できず、調子もジリ貧だったからやむを得ないところ。夏休みにしっかり練習して臨めるであろう日本インカレで雪辱を果たしてほしいところである。
それにしても今日の競歩審判、最後の写真のボードの通りで警告の出しまくり。失格が6人ということは出場者の2割という異常事態である。2レーンに立って正面から見るのみで警告を出している様子に、一緒に観戦した競歩指導者達も一様に疑問を呈していた。審判によって見逃されたり厳しく取られたり、というところが走種目に比べてフェアでない、わかりにくい、すっきりしない種目という印象を与えてしまう。これもなかなか競歩に人気が出にくい所以ではなかろうか。
2012年5月25日金曜日
関東インカレ女子10000m競歩3位入賞!
関東インカレ最終日。前日に男子が埼玉医大生として初出場を果たしたが、この日は女子が初出場。もっとも2年の岡部は昨年9月の日本インカレに出場しているので、インカレ初出場というわけではないが・・・。
日本インカレでは9位とあと一歩で入賞を逃している。今回の関東インカレは実力からいけば3位入賞行けるはず。まさか4位はとってくれるなよ、と思っていた。
レースは立教大の岡田選手は別格として、国士舘大の鳥羽選手と2位争い。この鳥羽選手こそが日本インカレで最後岡部を抜き去った因縁の相手。今回も好勝負を繰り広げたが、冬に20kmを2レース行った疲労が出たのか、4月からの医学部実習で練習不足だったか、残念ながら今回も敗れて3位ということになった。しかししっかり粘って表彰台を確保。初出場初入賞の快挙を成し遂げてくれた。
僕はといえば、たいへん無念ながら当日は大学病院で当直。レースを見ることも声をかけることもできなかった。Twitterでの実況中継だけを頼りに、手に汗握ってiPhoneを見つめていただけ。
まあ監督がいなくても選手はちゃんと競技できるという当たり前のことがわかった一日だった。
日本インカレでは9位とあと一歩で入賞を逃している。今回の関東インカレは実力からいけば3位入賞行けるはず。まさか4位はとってくれるなよ、と思っていた。
レースは立教大の岡田選手は別格として、国士舘大の鳥羽選手と2位争い。この鳥羽選手こそが日本インカレで最後岡部を抜き去った因縁の相手。今回も好勝負を繰り広げたが、冬に20kmを2レース行った疲労が出たのか、4月からの医学部実習で練習不足だったか、残念ながら今回も敗れて3位ということになった。しかししっかり粘って表彰台を確保。初出場初入賞の快挙を成し遂げてくれた。
僕はといえば、たいへん無念ながら当日は大学病院で当直。レースを見ることも声をかけることもできなかった。Twitterでの実況中継だけを頼りに、手に汗握ってiPhoneを見つめていただけ。まあ監督がいなくても選手はちゃんと競技できるという当たり前のことがわかった一日だった。
2012年5月24日木曜日
関東インカレに初出場者〜めでたし
埼玉医大に赴任して監督を仰せつかって7年目。やっと関東インカレ初出場者が出た。医学科2年の中山雄太君。昨年9月の関東医科大学陸上で22秒00と標準記録を突破し、19日の男子2部200m予選に出走した(写真一番左の8レーン)。
残念ながら向かい風にあおられて記録的にも難しく、準決勝に進むことはできなかったが、まずは記念すべき第一歩。中山君自身も素質に恵まれた魅力的なスプリンターだけに2〜3年後の入賞を本気で目指してもらいたい。
来年はぜひ男子個人3種目での出場を狙いたいところ。
残念ながら向かい風にあおられて記録的にも難しく、準決勝に進むことはできなかったが、まずは記念すべき第一歩。中山君自身も素質に恵まれた魅力的なスプリンターだけに2〜3年後の入賞を本気で目指してもらいたい。
来年はぜひ男子個人3種目での出場を狙いたいところ。
2012年5月16日水曜日
ヤーズの血栓症リスクは他のOCとかわらないのか
エチニルエストラジオールの含有量が少なく、ドロスピレノンという利尿剤類似のプロゲスチンを含有していることから、アスリートへの処方に向いていると思われるOC(経口避妊薬・ピル)、ヤーズ®。ただ血栓症のリスクが高い可能性があり、アスリートへの処方に慎重にならざるをえない、と1年前に記載した。
その後、他の疫学研究報告を検討してみたが、いまだヤーズ®の血栓症リスクは他のOC以上のものかどうかはっきりしない気配である。
もともと、ドロスピレノン含有OCの血栓リスクが高いという警告がFDAから発せられたのは、質の高い2つの「症例対象研究」で同程度に高い相対危険率が算出されたからであった。
これを否定するためには、より「証拠力」の高いと言われる前向きコホート研究で、ドロスピレノン含有OC服用者と他のOC服用者で血栓症をおこす頻度がかわらないことを証明せねばならない。
じっさい、ヨーロッパの14万人の女性を対象にした前向きコホート研究で、ドロスピレノン含有OCと他のOCによる心血管系の副作用リスクはかわらないという結果が示されていた(Contraception, 2007)のに加え、米国でも4万人以上を対象とした同様の研究で血栓リスクはかわらない(Obstetrics & Gynecology, 2007)という結果が存在する。ヨーロッパの研究は最近もフォロー試験が続いており、学会抄録を見る限りドロスピレノン含有OCのリスクはやはり証明されていないようである。
しかし昨年のFDAの注意喚起をよく読むと、やはりこれらの市販後調査の結果と2つの症例対象研究の結果は「conflicting」としながらも、血栓リスクの可能性を無視できないとする立場をとっている。
この一年でより質の高い前向きコホート研究が登場するのかと待ってみたが、今のところはまだ論文として発表はなされていない。
したがって、ヤーズ®の血栓リスクをとりまく状況は昨年とあまり変わってはいない。ただし僕自身も処方を重ねるにつれ、「吐き気や体重増加・浮腫などの副作用が少ない反面、少量不正出血の頻度が高い」というヤーズ®の特徴がはっきりしてきたように思うので、これらの利点・欠点を個別に勘案しつつ、処方薬を決定していこうと考えている。
その後、他の疫学研究報告を検討してみたが、いまだヤーズ®の血栓症リスクは他のOC以上のものかどうかはっきりしない気配である。
もともと、ドロスピレノン含有OCの血栓リスクが高いという警告がFDAから発せられたのは、質の高い2つの「症例対象研究」で同程度に高い相対危険率が算出されたからであった。
これを否定するためには、より「証拠力」の高いと言われる前向きコホート研究で、ドロスピレノン含有OC服用者と他のOC服用者で血栓症をおこす頻度がかわらないことを証明せねばならない。
じっさい、ヨーロッパの14万人の女性を対象にした前向きコホート研究で、ドロスピレノン含有OCと他のOCによる心血管系の副作用リスクはかわらないという結果が示されていた(Contraception, 2007)のに加え、米国でも4万人以上を対象とした同様の研究で血栓リスクはかわらない(Obstetrics & Gynecology, 2007)という結果が存在する。ヨーロッパの研究は最近もフォロー試験が続いており、学会抄録を見る限りドロスピレノン含有OCのリスクはやはり証明されていないようである。
しかし昨年のFDAの注意喚起をよく読むと、やはりこれらの市販後調査の結果と2つの症例対象研究の結果は「conflicting」としながらも、血栓リスクの可能性を無視できないとする立場をとっている。
この一年でより質の高い前向きコホート研究が登場するのかと待ってみたが、今のところはまだ論文として発表はなされていない。
したがって、ヤーズ®の血栓リスクをとりまく状況は昨年とあまり変わってはいない。ただし僕自身も処方を重ねるにつれ、「吐き気や体重増加・浮腫などの副作用が少ない反面、少量不正出血の頻度が高い」というヤーズ®の特徴がはっきりしてきたように思うので、これらの利点・欠点を個別に勘案しつつ、処方薬を決定していこうと考えている。
2012年5月2日水曜日
無月経の長距離ランナーがみな低エストロゲンとは限らない
無月経の治療を目的に外来にやってくる一流女子長距離ランナーは、ほとんどが血中エストラジオール値30pg/ml以下の低エストロゲン状態である。「一流」というのは「実業団や大学で競技者としてやっている」という意味で、当然ながら皆、BMI18程度、体脂肪率15%程度の痩せ型である。
医学部の3年生に行う講義の内容にならえば、無月経の分類としては「視床下部性」無月経でWHOによる排卵障害のGroup 1。長期化重症化すると下垂体も「冬眠状態」に入り、「下垂体性」無月経の様相も呈する。すなわちLH-RH(GnRH:性腺刺激ホルモン放出ホルモン)投与で下垂体を刺激しても、下垂体ホルモンは低値のまま、となってしまう。LHが1mIU/mL未満になってしまっていると、ほぼこの冬眠状態である。この段階になると卵巣のホルモン分泌活動も低下し、血中エストラジオール値も「小学生レベル」ないしは「おばあちゃんレベル」に低下するわけだ。
で、無月経の長距離ランナーが皆このパターンの無月経かというと、そうでもない者が混じっている。
最近診た2選手は、経腹超音波検査でみると子宮が5cm程度と普通なみの大きさ、子宮内膜が4mm程度とはっきり視認できた。「冬眠」選手だと子宮は3cm程度、内膜は1mm以下でほとんど視認できなくなるのに対して、明らかに違うパターンだ。しかも左右の卵巣がはっきり確認でき、5mm程度の卵胞がぎっしり泡状に詰まっているという特徴があった。
採血してみると、無月経であるにもかかわらず、血中エストラジオール値は60以上、LH 7mIU/mL程度、FSH 4mIU/mL程度と、エストラジオール、下垂体ホルモンともに十分高い値である。
これだけ特徴が揃うと「多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)」と診断できる。WHO排卵障害分類のGroup 2である。
これは日本人でもっとも多い排卵障害の原因の一つで、本人の体質に由来するといってよい。すなわちこの選手たちは長距離走をやっていなくても、月経不順や無月経になる可能性が高いということである。幸いにして低エストロゲンにはならないので、骨粗鬆症を心配しなくてもよいし、ホルモン補充療法を行う必要もない。
ただ無月経のままほうっておいていいわけではなく、エストロゲンだけが作用し、月経により更新されない子宮内膜は子宮内膜癌のリスクが高いことがわかっているので、1〜2ヶ月に1回くらいは黄体ホルモン(P)剤を投与して消退出血を起こすことが望ましい。
また、体質に由来すると言うことは、競技をやめても排卵障害は続くということである。ひょっとすると妊娠しにくいかもしれず、ずっと婦人科とは縁が切れないかもしれないよ、と説明をしておいた。
たまたまかもしれないが、これまで長距離ランナーの無月経診療で遭遇した多嚢胞性卵巣症候群患者は全て大学生ランナー。なお、多嚢胞性卵巣症候群では血中テストステロン(男性ホルモン)値が異常に高くなることがあるが、これらの選手はテストステロンは正常だった。
こうしたランナーたちにも、ホルモン補充療法ではなく、個別に適切なホルモン療法を提供していくことが婦人科スポーツドクターの役目である。
医学部の3年生に行う講義の内容にならえば、無月経の分類としては「視床下部性」無月経でWHOによる排卵障害のGroup 1。長期化重症化すると下垂体も「冬眠状態」に入り、「下垂体性」無月経の様相も呈する。すなわちLH-RH(GnRH:性腺刺激ホルモン放出ホルモン)投与で下垂体を刺激しても、下垂体ホルモンは低値のまま、となってしまう。LHが1mIU/mL未満になってしまっていると、ほぼこの冬眠状態である。この段階になると卵巣のホルモン分泌活動も低下し、血中エストラジオール値も「小学生レベル」ないしは「おばあちゃんレベル」に低下するわけだ。
で、無月経の長距離ランナーが皆このパターンの無月経かというと、そうでもない者が混じっている。
最近診た2選手は、経腹超音波検査でみると子宮が5cm程度と普通なみの大きさ、子宮内膜が4mm程度とはっきり視認できた。「冬眠」選手だと子宮は3cm程度、内膜は1mm以下でほとんど視認できなくなるのに対して、明らかに違うパターンだ。しかも左右の卵巣がはっきり確認でき、5mm程度の卵胞がぎっしり泡状に詰まっているという特徴があった。
採血してみると、無月経であるにもかかわらず、血中エストラジオール値は60以上、LH 7mIU/mL程度、FSH 4mIU/mL程度と、エストラジオール、下垂体ホルモンともに十分高い値である。
これだけ特徴が揃うと「多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)」と診断できる。WHO排卵障害分類のGroup 2である。
これは日本人でもっとも多い排卵障害の原因の一つで、本人の体質に由来するといってよい。すなわちこの選手たちは長距離走をやっていなくても、月経不順や無月経になる可能性が高いということである。幸いにして低エストロゲンにはならないので、骨粗鬆症を心配しなくてもよいし、ホルモン補充療法を行う必要もない。
ただ無月経のままほうっておいていいわけではなく、エストロゲンだけが作用し、月経により更新されない子宮内膜は子宮内膜癌のリスクが高いことがわかっているので、1〜2ヶ月に1回くらいは黄体ホルモン(P)剤を投与して消退出血を起こすことが望ましい。
また、体質に由来すると言うことは、競技をやめても排卵障害は続くということである。ひょっとすると妊娠しにくいかもしれず、ずっと婦人科とは縁が切れないかもしれないよ、と説明をしておいた。
たまたまかもしれないが、これまで長距離ランナーの無月経診療で遭遇した多嚢胞性卵巣症候群患者は全て大学生ランナー。なお、多嚢胞性卵巣症候群では血中テストステロン(男性ホルモン)値が異常に高くなることがあるが、これらの選手はテストステロンは正常だった。
こうしたランナーたちにも、ホルモン補充療法ではなく、個別に適切なホルモン療法を提供していくことが婦人科スポーツドクターの役目である。
2012年4月29日日曜日
OTK 60K〜天候に恵まれた(暑かったけど)
青梅から都県境の山々を経て雲取山までのぼり一気に鴨沢まで下る60KのトレイルイベントOTKに今年も参加した。GWのイベントとしてこれだけははずせない。
快晴に恵まれた分、前半暑くてハイドレーションをじゃんじゃん消費。一杯水までに1.5リットル飲みきって、湧き水で満タンにした。ただそれ以降は標高1500m越えで水分消費は激減。何とか最後まで持った。
3回目の参加ともなると、コースの概要も、迷いやすいところもだいたいわかって、ルート探しにエネルギーを使わなくてよくなる。また昨年前半とばしすぎて、一番「走れる」蕎麦粒山〜酉谷山の区間をとぼとぼとなってしまった反省もいかして、今回は上手にまとめることができた。約60kmを10時間35分。昨年より約10分短縮。
慢性化している左アキレス腱痛が途中からだいぶ痛んだが、最後の鴨沢までの6km超の長い下りは快調に飛ばせた。この区間があるから気持ちよく終われる。
ただ、さすがにこれだけの距離と標高差を一気に走ると、アキレス腱以外にも脚じゅうにダメージがきている。当分ロボット歩きとなる予定。
快晴に恵まれた分、前半暑くてハイドレーションをじゃんじゃん消費。一杯水までに1.5リットル飲みきって、湧き水で満タンにした。ただそれ以降は標高1500m越えで水分消費は激減。何とか最後まで持った。
3回目の参加ともなると、コースの概要も、迷いやすいところもだいたいわかって、ルート探しにエネルギーを使わなくてよくなる。また昨年前半とばしすぎて、一番「走れる」蕎麦粒山〜酉谷山の区間をとぼとぼとなってしまった反省もいかして、今回は上手にまとめることができた。約60kmを10時間35分。昨年より約10分短縮。
慢性化している左アキレス腱痛が途中からだいぶ痛んだが、最後の鴨沢までの6km超の長い下りは快調に飛ばせた。この区間があるから気持ちよく終われる。
ただ、さすがにこれだけの距離と標高差を一気に走ると、アキレス腱以外にも脚じゅうにダメージがきている。当分ロボット歩きとなる予定。
2012年4月26日木曜日
読売新聞にインタビュー記事が載った
しばらく前になるが、4月3日の読売新聞朝刊に記事が載った。「WOMEN 第1部 心と体」と題した特集記事で、ロンドン五輪を控えて女子アスリートの心と体の問題を洗い直す趣旨である。その第1回が「猛練習と減量 体に異変」というタイトルがついて、前半が体操競技、後半が陸上長距離の女子選手をとりあげている。その後半に僕が登場するので紹介しておく。
過酷な体重制限と月経不順は、体操に限った問題ではない。陸上の長距離種目では以前から指摘されてきた。日本陸連の医事委員でもある埼玉医大病院産婦人科の難波聡医師はある年の世界ジュニア選手権に同行して驚いた。20歳未満の選手が参加する大会で、中長距離の女子代表8人のうち7人が、長期的に月経がない無月経の状態だった。
難波医師によると、無月経で問題なのは、ホルモンのバランスが崩れて骨密度が低い状態になることだ。そのため、骨盤などの疲労骨折を起こしやすくなる。難波医師が相談を受けた事例では、こういう選手もいた。
中学の時に初潮があっただけで、その後はなし。高校は駅伝の強豪校に入り、その間も月経はなかった。実業団に入って2年たったが、状態は変わらない。実業団では練習量が増えて、疲労骨折などの故障が増えてきた。レースにも出られず、高校時代の自己ベストを更新できずにいる−−。
難波医師が特に懸念するのは、このように成人になっても月経の周期が確立しなかった選手だ。ずっと月経がなかった選手が、果たして引退後に出産できるのか。「卵巣機能が成熟した人であれば、一時的に月経が止まっても、現役を引退すれば回復すると思う。だが、最近はそういう選手ばかりとも言えない。性成熟期を経験していない選手が、引退して月経リズムが戻ってくるのかという点が、まだよく分かっていない」
難波医師は現在、陸連強化委員会の協力を得て、元実業団選手を対象にしたアンケート調査を実施し、集計作業をすすめている。
(以上4月3日読売新聞朝刊より)
過酷な体重制限と月経不順は、体操に限った問題ではない。陸上の長距離種目では以前から指摘されてきた。日本陸連の医事委員でもある埼玉医大病院産婦人科の難波聡医師はある年の世界ジュニア選手権に同行して驚いた。20歳未満の選手が参加する大会で、中長距離の女子代表8人のうち7人が、長期的に月経がない無月経の状態だった。
難波医師によると、無月経で問題なのは、ホルモンのバランスが崩れて骨密度が低い状態になることだ。そのため、骨盤などの疲労骨折を起こしやすくなる。難波医師が相談を受けた事例では、こういう選手もいた。
中学の時に初潮があっただけで、その後はなし。高校は駅伝の強豪校に入り、その間も月経はなかった。実業団に入って2年たったが、状態は変わらない。実業団では練習量が増えて、疲労骨折などの故障が増えてきた。レースにも出られず、高校時代の自己ベストを更新できずにいる−−。
難波医師が特に懸念するのは、このように成人になっても月経の周期が確立しなかった選手だ。ずっと月経がなかった選手が、果たして引退後に出産できるのか。「卵巣機能が成熟した人であれば、一時的に月経が止まっても、現役を引退すれば回復すると思う。だが、最近はそういう選手ばかりとも言えない。性成熟期を経験していない選手が、引退して月経リズムが戻ってくるのかという点が、まだよく分かっていない」
難波医師は現在、陸連強化委員会の協力を得て、元実業団選手を対象にしたアンケート調査を実施し、集計作業をすすめている。(以上4月3日読売新聞朝刊より)
2012年4月25日水曜日
血中エストラジオール値だけではPによる消退出血の有無はわからない
無月経の女性アスリートが初診してきた場合、最初に採血をすることが多い。LH、FSH、プロラクチンなどの下垂体ホルモンに加え、必ず血中エストラジオール値を測定する。これは要するに卵巣が分泌している女性ホルモン(エストロゲン)の量を表し、だいたい無月経の「重症度」が高いほど低下すると考えてよい。
正常に月経周期が維持されている女性ではおおよそ30pg/mlから120pg/mlくらいの間で血中エストラジオール値は周期的に変動する。
一方、数年以上の長期無月経の患者や閉経後の女性では20pg/ml未満、しばしば(通常よく用いられる測定法であるEIA法の検出感度以下という意味の)10pg/ml未満となってしまう。(ちなみにこのような低濃度のエストラジオールの測定にはEIA法でなくRIA法での検査提出が望ましいのでお知りおきを)
さて、無月経の「重症度」を分類する方法として用いられてきたのは、まず黄体ホルモン(プロゲステロン製剤という意味でPと略すことがある)を投与してみて、子宮からの消退出血があるかないかを見る、というやり方だ。
ある程度卵巣からのエストロゲン分泌能力が残存していれば、子宮内膜もある程度の厚みとホルモン反応性を残しているため、P投与後に出血がある。これは「軽症」で「第一度」無月経とされる。
一方、卵巣からのエストロゲン分泌まで低下してしまっているような「重症」無月経ではP投与だけでは消退出血がおこらず、「第二度」無月経と分類される。
この第一度、第二度を分ける血中のエストラジオール値はどれくらいかというと、一説によれば32pg/mlとされている。それ以下は「低エストロゲン状態」というわけだ。
最近診察したある20歳の球技選手は、1年間の無月経で血中エストラジオール値も18pg/mlと低下していた。しかし超音波検査をしてみると子宮が(体部のみの測定で)55mmとほぼ正常に近いサイズで、子宮内膜も4mm程度の厚みでしっかりと確認できた。
これはエストラジオール値こそ低いものの黄体ホルモン(P)投与のみで消退出血がくるのではないかと予想したところ、その通り、「以前の月経並みの」消退出血があったと報告を受けた。
つまりP投与で出血があるかどうかを血中エストラジオール値のみで判断するのは難しい。もし同じ18pg/mlであっても、子宮が35mm程度と小さく(「小学生レベル」と説明している)子宮内膜がほとんど見えないほど薄ければ、おそらく消退出血はないであろう。
エストラジオール値と子宮サイズ(内膜厚み)は、血糖値とHbA1cの関係にも似ている。採血時の一瞬間の血糖値ではなく最近1〜2ヶ月の血糖値の指標となるのがHbA1cであるように、最近1〜2ヶ月のエストロゲンの効果の積分値を示すのが子宮サイズや子宮内膜の厚みであろう。これがある程度保たれていれば、Pのみで出血をおこすことができるわけだ。
どうしてP投与のみで出血させられるかをこんなに気にするかといえば、治療手段に関わるからである。Pだけで出血させられないとなると、エストロゲン(E)とPをともに投与することになるが、ときとしてこの場合にいわゆるピル(または経口避妊薬、OC)が処方されることがある。このピルがけっこうな副作用をもたらす結果、ホルモン療法自体から選手を遠ざけてしまうことがある。
ところがある程度のエストラジオール分泌が保たれていれば、ときどきPを投与するだけで子宮内膜を更新することができ、当面の子宮体癌のリスクや不正出血を回避したりすることが可能となる。
したがってスポーツ婦人科医は血中エストラジオール値だけではなく、子宮サイズや内膜の厚さなどを総合的に見て、必要十分なホルモン療法を決定していかなくてはならない。
正常に月経周期が維持されている女性ではおおよそ30pg/mlから120pg/mlくらいの間で血中エストラジオール値は周期的に変動する。
一方、数年以上の長期無月経の患者や閉経後の女性では20pg/ml未満、しばしば(通常よく用いられる測定法であるEIA法の検出感度以下という意味の)10pg/ml未満となってしまう。(ちなみにこのような低濃度のエストラジオールの測定にはEIA法でなくRIA法での検査提出が望ましいのでお知りおきを)
さて、無月経の「重症度」を分類する方法として用いられてきたのは、まず黄体ホルモン(プロゲステロン製剤という意味でPと略すことがある)を投与してみて、子宮からの消退出血があるかないかを見る、というやり方だ。
ある程度卵巣からのエストロゲン分泌能力が残存していれば、子宮内膜もある程度の厚みとホルモン反応性を残しているため、P投与後に出血がある。これは「軽症」で「第一度」無月経とされる。
一方、卵巣からのエストロゲン分泌まで低下してしまっているような「重症」無月経ではP投与だけでは消退出血がおこらず、「第二度」無月経と分類される。
この第一度、第二度を分ける血中のエストラジオール値はどれくらいかというと、一説によれば32pg/mlとされている。それ以下は「低エストロゲン状態」というわけだ。
最近診察したある20歳の球技選手は、1年間の無月経で血中エストラジオール値も18pg/mlと低下していた。しかし超音波検査をしてみると子宮が(体部のみの測定で)55mmとほぼ正常に近いサイズで、子宮内膜も4mm程度の厚みでしっかりと確認できた。
これはエストラジオール値こそ低いものの黄体ホルモン(P)投与のみで消退出血がくるのではないかと予想したところ、その通り、「以前の月経並みの」消退出血があったと報告を受けた。
つまりP投与で出血があるかどうかを血中エストラジオール値のみで判断するのは難しい。もし同じ18pg/mlであっても、子宮が35mm程度と小さく(「小学生レベル」と説明している)子宮内膜がほとんど見えないほど薄ければ、おそらく消退出血はないであろう。
エストラジオール値と子宮サイズ(内膜厚み)は、血糖値とHbA1cの関係にも似ている。採血時の一瞬間の血糖値ではなく最近1〜2ヶ月の血糖値の指標となるのがHbA1cであるように、最近1〜2ヶ月のエストロゲンの効果の積分値を示すのが子宮サイズや子宮内膜の厚みであろう。これがある程度保たれていれば、Pのみで出血をおこすことができるわけだ。
どうしてP投与のみで出血させられるかをこんなに気にするかといえば、治療手段に関わるからである。Pだけで出血させられないとなると、エストロゲン(E)とPをともに投与することになるが、ときとしてこの場合にいわゆるピル(または経口避妊薬、OC)が処方されることがある。このピルがけっこうな副作用をもたらす結果、ホルモン療法自体から選手を遠ざけてしまうことがある。
ところがある程度のエストラジオール分泌が保たれていれば、ときどきPを投与するだけで子宮内膜を更新することができ、当面の子宮体癌のリスクや不正出血を回避したりすることが可能となる。
したがってスポーツ婦人科医は血中エストラジオール値だけではなく、子宮サイズや内膜の厚さなどを総合的に見て、必要十分なホルモン療法を決定していかなくてはならない。
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