何年も月経が来ていないアスリートに対してホルモン補充療法を行う一番の目的は、骨粗鬆症を防ぎ、選手生命が故障により短命に終わらないようにするためである。
もちろん将来の妊娠能力(妊孕性)も心配なところではあるが、引退後の実業団女子長距離ランナーに対するアンケート調査によれば、ほとんどの選手が引退後の体重増加とともに月経が回復しており、不妊症の率も特に高くはないことがわかっている。
したがって僕も、無月経のアスリートに対して、将来の妊孕性に関してはあまり「脅かさないように」している。
では、もし無月経であっても骨密度が十分高いアスリートに対しては、ホルモン補充療法の必要はないのだろうか? 長距離ランナーなら、例えば腰椎骨密度が若年者平均の90%以上あるような場合であろう。
これは、アスリートの年齢、現在の競技レベル、今後の目標や長期計画などによってケースバイケースに決めていくことになる。
まずは骨密度の高低にかかわらず、トレーニングや食事、体重の見直しなどを進めるのが、排卵回復の根本対策になる。
骨密度が十分あるなら、そうした見直しをしつつホルモン療法なしで様子をみる期間を半年〜1年くらいとってもよいと思う。
ただし現時点では骨密度が十分であっても、長い目でみた場合、たとえば実業団の若手で、将来距離を伸ばしてマラソンまで走るのが目標、というような選手の場合は、早期からのエストロゲン補充を勧めることもある。
無月経だが骨密度が高い場合、もともと遺伝的または体質的に骨が強い選手なのだが、徐々に骨密度が減ってきている途中段階、と見なすのが妥当だ。
「将来を見据えた」場合、本人とコーチの納得が得られれば、やはりホルモン補充を考慮すべきである。
チームの新人で、まだすぐには競技成績を期待されない状況や故障で走れない状況なら、体重増加や練習量低減が受け入れられやすい。しかし、すでにある程度活躍しており競技レベルを保つ必要がある場合、なかなか体重増加やトレーニング量減少は現場に受け入れられない。その場合は、むしろホルモン補充療法に頼らざるをえないことになる。
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