2012年5月25日金曜日

関東インカレ女子10000m競歩3位入賞!

関東インカレ最終日。前日に男子が埼玉医大生として初出場を果たしたが、この日は女子が初出場。もっとも2年の岡部は昨年9月の日本インカレに出場しているので、インカレ初出場というわけではないが・・・。
日本インカレでは9位とあと一歩で入賞を逃している。今回の関東インカレは実力からいけば3位入賞行けるはず。まさか4位はとってくれるなよ、と思っていた。

レースは立教大の岡田選手は別格として、国士舘大の鳥羽選手と2位争い。この鳥羽選手こそが日本インカレで最後岡部を抜き去った因縁の相手。今回も好勝負を繰り広げたが、冬に20kmを2レース行った疲労が出たのか、4月からの医学部実習で練習不足だったか、残念ながら今回も敗れて3位ということになった。しかししっかり粘って表彰台を確保。初出場初入賞の快挙を成し遂げてくれた。

僕はといえば、たいへん無念ながら当日は大学病院で当直。レースを見ることも声をかけることもできなかった。Twitterでの実況中継だけを頼りに、手に汗握ってiPhoneを見つめていただけ。
まあ監督がいなくても選手はちゃんと競技できるという当たり前のことがわかった一日だった。

2012年5月24日木曜日

関東インカレに初出場者〜めでたし

埼玉医大に赴任して監督を仰せつかって7年目。やっと関東インカレ初出場者が出た。医学科2年の中山雄太君。昨年9月の関東医科大学陸上で22秒00と標準記録を突破し、19日の男子2部200m予選に出走した(写真一番左の8レーン)。
残念ながら向かい風にあおられて記録的にも難しく、準決勝に進むことはできなかったが、まずは記念すべき第一歩。中山君自身も素質に恵まれた魅力的なスプリンターだけに2〜3年後の入賞を本気で目指してもらいたい。
来年はぜひ男子個人3種目での出場を狙いたいところ。

2012年5月16日水曜日

ヤーズの血栓症リスクは他のOCとかわらないのか

エチニルエストラジオールの含有量が少なく、ドロスピレノンという利尿剤類似のプロゲスチンを含有していることから、アスリートへの処方に向いていると思われるOC(経口避妊薬・ピル)、ヤーズ®。ただ血栓症のリスクが高い可能性があり、アスリートへの処方に慎重にならざるをえない、と1年前に記載した。
その後、他の疫学研究報告を検討してみたが、いまだヤーズ®の血栓症リスクは他のOC以上のものかどうかはっきりしない気配である。
もともと、ドロスピレノン含有OCの血栓リスクが高いという警告がFDAから発せられたのは、質の高い2つの「症例対象研究」で同程度に高い相対危険率が算出されたからであった。
これを否定するためには、より「証拠力」の高いと言われる前向きコホート研究で、ドロスピレノン含有OC服用者と他のOC服用者で血栓症をおこす頻度がかわらないことを証明せねばならない。
じっさい、ヨーロッパの14万人の女性を対象にした前向きコホート研究で、ドロスピレノン含有OCと他のOCによる心血管系の副作用リスクはかわらないという結果が示されていた(Contraception, 2007)のに加え、米国でも4万人以上を対象とした同様の研究で血栓リスクはかわらない(Obstetrics & Gynecology, 2007)という結果が存在する。ヨーロッパの研究は最近もフォロー試験が続いており、学会抄録を見る限りドロスピレノン含有OCのリスクはやはり証明されていないようである。
しかし昨年のFDAの注意喚起をよく読むと、やはりこれらの市販後調査の結果と2つの症例対象研究の結果は「conflicting」としながらも、血栓リスクの可能性を無視できないとする立場をとっている。
この一年でより質の高い前向きコホート研究が登場するのかと待ってみたが、今のところはまだ論文として発表はなされていない。
したがって、ヤーズ®の血栓リスクをとりまく状況は昨年とあまり変わってはいない。ただし僕自身も処方を重ねるにつれ、「吐き気や体重増加・浮腫などの副作用が少ない反面、少量不正出血の頻度が高い」というヤーズ®の特徴がはっきりしてきたように思うので、これらの利点・欠点を個別に勘案しつつ、処方薬を決定していこうと考えている。

2012年5月2日水曜日

無月経の長距離ランナーがみな低エストロゲンとは限らない

無月経の治療を目的に外来にやってくる一流女子長距離ランナーは、ほとんどが血中エストラジオール値30pg/ml以下の低エストロゲン状態である。「一流」というのは「実業団や大学で競技者としてやっている」という意味で、当然ながら皆、BMI18程度、体脂肪率15%程度の痩せ型である。
医学部の3年生に行う講義の内容にならえば、無月経の分類としては「視床下部性」無月経でWHOによる排卵障害のGroup 1。長期化重症化すると下垂体も「冬眠状態」に入り、「下垂体性」無月経の様相も呈する。すなわちLH-RH(GnRH:性腺刺激ホルモン放出ホルモン)投与で下垂体を刺激しても、下垂体ホルモンは低値のまま、となってしまう。LHが1mIU/mL未満になってしまっていると、ほぼこの冬眠状態である。この段階になると卵巣のホルモン分泌活動も低下し、血中エストラジオール値も「小学生レベル」ないしは「おばあちゃんレベル」に低下するわけだ。
で、無月経の長距離ランナーが皆このパターンの無月経かというと、そうでもない者が混じっている。
最近診た2選手は、経腹超音波検査でみると子宮が5cm程度と普通なみの大きさ、子宮内膜が4mm程度とはっきり視認できた。「冬眠」選手だと子宮は3cm程度、内膜は1mm以下でほとんど視認できなくなるのに対して、明らかに違うパターンだ。しかも左右の卵巣がはっきり確認でき、5mm程度の卵胞がぎっしり泡状に詰まっているという特徴があった。
採血してみると、無月経であるにもかかわらず、血中エストラジオール値は60以上、LH 7mIU/mL程度、FSH 4mIU/mL程度と、エストラジオール、下垂体ホルモンともに十分高い値である。
これだけ特徴が揃うと「多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)」と診断できる。WHO排卵障害分類のGroup 2である。
これは日本人でもっとも多い排卵障害の原因の一つで、本人の体質に由来するといってよい。すなわちこの選手たちは長距離走をやっていなくても、月経不順や無月経になる可能性が高いということである。幸いにして低エストロゲンにはならないので、骨粗鬆症を心配しなくてもよいし、ホルモン補充療法を行う必要もない。
ただ無月経のままほうっておいていいわけではなく、エストロゲンだけが作用し、月経により更新されない子宮内膜は子宮内膜癌のリスクが高いことがわかっているので、1〜2ヶ月に1回くらいは黄体ホルモン(P)剤を投与して消退出血を起こすことが望ましい。
また、体質に由来すると言うことは、競技をやめても排卵障害は続くということである。ひょっとすると妊娠しにくいかもしれず、ずっと婦人科とは縁が切れないかもしれないよ、と説明をしておいた。
たまたまかもしれないが、これまで長距離ランナーの無月経診療で遭遇した多嚢胞性卵巣症候群患者は全て大学生ランナー。なお、多嚢胞性卵巣症候群では血中テストステロン(男性ホルモン)値が異常に高くなることがあるが、これらの選手はテストステロンは正常だった。
こうしたランナーたちにも、ホルモン補充療法ではなく、個別に適切なホルモン療法を提供していくことが婦人科スポーツドクターの役目である。