2013年5月23日木曜日

吉田香織選手のドーピング違反処分について

陸上競技関係者には衝撃的なニュースが飛び込んできた。


女子マラソンの吉田が薬物違反=資格停止1年の処分

 日本アンチ・ドーピング機構は23日、昨年12月のホノルル・マラソンで女子4位の吉田香織(31)がドーピング(禁止薬物使用)検査で陽性反応を示し、今年1月18日から1年間の資格停止処分を科したと発表した。レース後の検査で持久力向上の効果があるエリスロポエチン(EPO)が検出された。同マラソンの結果は取り消される。
 吉田は2006年の北海道マラソンで優勝経験を持つ実力者。同機構によると、同選手は昨年11月に貧血治療のため、医師から告知を受けないままEPOを投与された。医師にはドーピング検査を受ける可能性を事前に伝えず、治療に際して禁止薬物の有無を確認していなかったという。同機構は、吉田が競技者としての注意を怠ったと結論づけた。 (時事ドットコム)








EPOは持久系スポーツにおける競技力を直接的に向上させるもっとも有名かつ頻用・濫用されてきた薬物である。自転車ロード競技、長距離走の分野では、ドーピングコントロールの最大のターゲットとなっている。これまで日本の選手で検出されたという報道はなかったはず。それがついに・・・。

JADAのホームページで、今回の規律パネル決定報告が公開されている。それによれば、やはり医師が本人が国際的競技者であることを認識しないままEPOの投与がなされたようだ。しかしどうも腑に落ちない。
日常の貧血診療でEPOが投与されることは稀だ。EPOはただの貧血では使われない。適応症としては「腎性貧血」である。腎疾患が背景にある貧血との診断があって初めて投与される。そのような状態なら、本来高強度の運動は奨められないはず。
吉田選手は平成24年10月21日の第1回千葉アクアラインマラソンで、25℃近い高温の中、2時間32分11秒の好タイムで優勝している。優勝インタビューでは「この調子を横浜国際女子マラソンにつなげて世界選手権代表を狙いたい」と言っていた。
ところが、4週間後、11月18日の横浜国際女子マラソンでは、2時間37分10秒の14位と惨敗している。
問題のEPOは、横浜国際女子マラソンのわずか6日前、11月12日に投与された。今回のケースは、勝負のレースの前に調子が落ち、(おそらく軽度の)貧血が明らかとなって焦る吉田選手側が「レースが近いから早く貧血を治したい」という希望を出し、ドーピングに無知な医師が安易に応じた結果ではないかと思われる。吉田選手も「知らないうちに違反薬物を投与された」一方的な被害者というわけでは決してないのだろう。

なお、医師は「ドーピング検査を受けるような選手」だと知らなかったからEPOを投与してしまった、という記事になっているが、「ドーピング検査を受けるような選手」でなければ投与してもいいかのように読めるこの記事は少々危険である。例え中学生、高校生のランナーに対してでもEPOの投与は違反であるばかりか、多血症状から血栓症を起こす危険性を孕む。また一時的に持久力向上、成績向上が得られるので、レースのたびに薬物に依存する競技者を生むことになってしまう。
高校生にも国体でドーピング検査が課される時代、吉田選手のような国際レベル競技者でなくとも、アスリートであれば誰でもドーピングコントロールには敏感であらねばならない。