2014年11月10日月曜日

アスリートQ&A「ピルの副作用とドーピングについて」

Q: ピルを服用すると、副作用はありませんか?ドーピングも心配なのですが。

A: 通常処方される低用量ピルを初めて内服したときには、「気持ち悪い」「だるい」という副作用が半分程度の女性に出現しますが、ほとんどが通常1週間程度で気にならなくなると言います。むくみ、食欲増加、(結果としての)体重増加といった副作用を訴える選手も時々いますが、これも1ヶ月程度のうちに落ち着く場合がほとんどです。もし1シート内服終了してもそうした症状が続いている場合には、中止するかピルの種類を変更するか、よく婦人科医と相談してください。
頻度は少ない(年間1万人あたり3〜9人)ものの重篤な副作用は血栓症です。ただし死亡率ははるかに低く10万人に1人以下とされています。アスリートの場合は、発汗による脱水、長時間の飛行機移動などが血栓症の誘発要因と懸念されますが、血栓症のリスク因子である肥満者・喫煙者・40歳以上の者が少ないこともあり、必ずしも一般人よりリスクが高いとは言われていません。ただしピルを飲み始めて、息苦しさ、視野障害、けいれん、ふくらはぎの痛みなどの症状が出現した場合には、血栓症の初期症状の可能性がありますので、ただちに服用を中止しなければなりません。
なお、日本で処方される低用量ピルの全てがドーピングコントロールにおいて問題となることはありませんから、ご心配なく。

(日本体育大学の文部省委託事業 女性アスリート育成・支援プロジェクト 月経周期を考慮したコンディショニング法 に掲載していただいたQ&Aです)

2014年11月9日日曜日

指導者Q&A「生理痛の強い選手への対応」

Q:生理中に腹痛など痛みがひどい選手に対して、休ませるべきなのか、無理して練習を続けるように指導すべきなのか迷います。判断する基準はありますか?

A:まず「無理して練習を(強制的に)続けさせる」という選択肢はありません。熱が出ている選手や骨折している選手に走らせるのと同じで、ハラスメントです。
傍目にもパフォーマンスが落ちていたり、辛そうであったりするにも関わらず、本人が「なんとかやれるから練習をしたい」と言ってきた場合が悩むところです。チーム戦術練習などでは、本人のパフォーマンスが低くても参加する意義があるでしょうから、一概に練習参加を否定はできません。一方、個人競技の多くにおいては、思い切って休ませるほうがコンディショニング上有利なことが多いのではないでしょうか。あるいは練習をさせるにしても、量を加減する、タイムやパフォーマンスを割引いて評価する、などの配慮が望まれます。
そもそも毎回月経時の症状がひどい選手に対しては、低用量ピル、適切な鎮痛薬の処方などの医学的介入が必要ですから、婦人科医に相談するよう、促してあげて下さい。

(日本体育大学の文部省委託事業 女性アスリート育成・支援プロジェクト 月経周期を考慮したコンディショニング法 に掲載していただいたQ&Aです)

2014年10月11日土曜日

日本生殖医学会市民講座に赤羽有紀子さん招聘

12月に行われる日本生殖医学会の学術講演会に併設して行われる市民公開講座にマラソン元日本代表の赤羽 有紀子さんをお呼びすることができた。
題して「はたらきウーマンのライフプラン」。
お嬢さんを出産後にめきめきと強くなり、赤羽周平コーチとの理想的な二人三脚で世界選手権マラソンにも出場した赤羽選手。ママさんランナーとしての理想型を見せてくれたように思う。
その肉声と経験談が聴けるチャンス。医療関係者に限らず、女性アスリート、中高校生、コーチ、アスリートの家族、赤羽さんのファン、皆様の来場を歓迎する。

私は・・・当日裏方をする予定。

2014年10月10日金曜日

「産婦人科の実際」に「女性アスリートのヘルスケア」と題した連載開始


 「産婦人科の実際」という医学雑誌に「女性アスリートのヘルスケア」というタイトルで、3回分の連載記事を書いた。現時点での婦人科スポーツ医学に関する話題の総集編である。今後、女性アスリート外来に携わろうとする先生方はぜひご一読を。
初回は現在発売中の9月号。偶然にも私のもう一つの専門分野である出生前診断の特集号にお邪魔している。遺伝関係で親しくさせていただいている先生方は、特集の後にくっついた突飛な特集記事の著者名を見て、びっくりされたかもしれない。NIPTコンソーシアムの一員でもあるはずの難波の専門はなんなんだ?と。

2014年10月9日木曜日

女性医学学会学術集会「女性アスリート」シンポジウムの案内

以前、更年期学会という名称だった女性医学学会。いよいよ女性スポーツ医学の分野にも乗り出してきた。
その記念すべき公開シンポジウムに、光栄にもお呼びいただいた。
「公開」というからには学会員以外も、入場できるはず。
医療職に限らず、栄養士、コーチ、競技団体関係者、アスリートなど多くの皆様の聴講を期待する。
最大の呼び物は柔道の山口 香さん。ロンドン五輪以来、騒がれる女子柔道界の諸問題が白日のもとに晒される?

2014年10月8日水曜日

女性スポーツ医学研究会学術集会のお知らせ

女性スポーツ医学研究会の今年の学術集会は12月13日(土)午後に慈恵医大で行われる。女性スポーツ医学に関心のある、 医師、看護師、栄養士、学生、大学院生、スポーツ指導者、アスリート、アスリートのご家族などにぜひ参加していただきたい。
大きな学会ではないので、会場でいろんな方々とご挨拶できるのも楽しみ。


2014年6月30日月曜日

個人選手権と埼玉県選手権で好結果(陸上部)

先週末、今週末に学生が参加した大会で2つ特筆すべき自己ベスト記録が出た。
岡部はライバルたちに勝って全国2位。竹内は10秒61! おめでとう。

2014日本学生陸上競技個人戦選手権大会(6/21・Shonan BMWスタジアム平塚)
 女子10000m競歩 2位 岡部 文子(埼玉医大 4年)48分23秒46

第69回 埼玉県陸上競技選手権大会(6/29・熊谷スポーツ文化公園陸上競技場)
 男子100m 決勝(-1.9) 3位 竹内 優太(埼玉医大 4年)10秒86(準決勝(+1.2) 10秒61)


2014年6月27日金曜日

女性アスリート外来を開設


毎週金曜日に勤務している浦和の石川病院で「女性アスリート外来」をこの4月から開設していただいている。浦和駅の他、武蔵野線・埼京線の武蔵浦和駅からも徒歩圏内なので、埼玉県内のアスリートのみならず、都内・千葉県・群馬県・栃木県からも比較的来院しやすい場所にある。

診察時間は9:30〜12:30、15:30〜17:30。
予約は平日の10:00〜12:00、15:30〜17:30に、電話048-861-2161まで。

2014年5月19日月曜日

外秩父トレイルラン43K〜脚攣りながらも完走

日曜日に、外秩父トレイルラン43Kに出場。寄居駅前8時スタート、ゴールは埼玉医大のすぐそば、ゆうパークおごせ。


アキレス腱付着部が痛くて最近のトレーニングはもっぱら自転車だったので、攻めの走りができるはずもなく、ひとりでトレイルツーリングするよりましかな、という程度の軽い気持ちで臨んだ。
結果は、6時間05分58秒で50位くらい。好天、でも暑すぎず、完璧なトレイル日和。水分は1リットルをハイドレーションに入れてスタートしたのみだったが、エイドが充実していて、持参の空ボトルに200mlくらいずつ補充しながら、ちょうどよかった。
後半どんどん地元のお馴染みコースに近づいてきて、故郷に帰って来たような嬉しさがあったものの、そのラスト大高取山で両脚攣って大失速したのはご愛嬌。
6月のTGG2014、何とか走れるかな。

2014年5月8日木曜日

女性アスリートとドーピング〜不妊治療を行いながら競技を続けられますか?

日本産婦人科医会報3月号の学術欄に「女性アスリートとドーピング」と題した一文を寄せたので転載する。一般産婦人科医向けの文章ではあるが、Q&A形式になっていて読みやすいと思われるので、ぜひご一読を。



はじめに

薬物は本来、疾患の治療のために用いられるべきものですが、競技力を高めるために不正に用いたり、その使用を隠蔽する薬物を用いたりすることをドーピングといいます。スポーツにおいて用いてはならない物質を世界ドーピング防止機構(WADA)は禁止表に定めています。こうした薬剤が競技力を高めるための使用でなかったとしても、アスリートはドーピング防止規則違反として責任を問われます。また、薬剤を処方した医師も実に嫌な思いをし、状況によっては責任を問われることにもなるでしょう。したがって女性アスリートが産婦人科外来を受診してきた場合には、ドーピングに関して十分注意を払わねばなりません。産婦人科で用いられる薬剤には、ステロイドホルモンが含まれるものや中枢の刺激/抑制作用を有するものが多く、一部に禁止物質が含まれます。ただし経口避妊薬を含む日常処方されるホルモン剤に含まれるのはステロイドといっても性ステロイドであり、蛋白同化作用を持つものは例外的ですのでおおむね問題なく処方できます。ホルモン剤以外の薬剤についてもある程度の知識を持っておくことが必要です。

最新の禁止物質情報は、WADAのウェブサイトから、現在であればThe 2014 Prohibited List(2014年禁止表)をダウンロードすることによって入手できます。禁止表に掲載されている産婦人科関連の禁止薬剤は、子宮内膜症治療薬でアンドロゲン作用を強く有するダナゾール、抗エストロゲン作用を有する経口排卵誘発薬であるクロミフェンとシクロフェニル、乳癌の術後ホルモン療法に用いられるアロマターゼ阻害薬、骨粗鬆症治療薬としても用いられるSERM(選択的エストロゲン受容体モジュレーター)です。

WADAには、アスリートの治療にどうしても禁止物質を投与しなければならない場合には、アスリートが事前にTUE(Therapeutic Use Exception)申請を行い、認められれば治療のために禁止物質を使用することができるというルールがあります。すべての禁止物質に適用されますが、申請は定められた書式を用い、臨床経過、検査所見などをあわせて提出する必要があります。TUE申請を行ってもすべてが認められるわけではありませんので、この点は誤解がないようにしてください。

表:WADA禁止表2014に掲載されている産婦人科関連の薬剤

薬剤の種類
薬剤名(一般名)
アンドロゲン作用薬
ダナゾール
アロマターゼ阻害薬
アナストロゾール・エキセメスタン・レトロゾール
SERM(乳癌・骨粗鬆症)
タモキシフェン・トレミフェン・ラロキシフェン・バゼドキシフェン
他の抗エストロゲン薬
クロミフェン、シクロフェニル、フルベストラント


問  経口避妊薬(低用量ピル)の中に処方すべきでないものがあると聞いたことがありますが?

答  ピルに含まれるプロゲスチンのうち、ノルエチステロンは体内で蛋白同化剤であるナンドロロンの代謝物の19-ノルアンドロステンジオン(禁止物質)に代謝されることがあり、ドーピング検査で陽性と判定されたことがかつてありました。しかし現在は両者の区別は可能となっていますので問題なく処方できます。産婦人科診療ガイドライン婦人科外来編2011には上記の注意記載がありますが、2014年の改訂で削除されます。ちなみにノルエチステロンが含まれる低用量ピルは、オーソM-21錠®、ルナベル®配合錠LD、ルナベル®配合錠ULDなどです。


問  利尿作用があるとされる経口避妊薬(低用量ピル)は問題ないでしょうか?

答  利尿剤は、禁止物質の使用を隠蔽する目的で使用されることがあるため、全て使用禁止となっています。ヤーズ®配合錠に含まれるドロスピレノンには軽度の利尿作用があるとされますが、WADAの禁止表では「ドロスピレノンを(禁止物質から)除く」と明記してあります。したがってアスリートにも処方可能です。参考までに低用量ピルをプロゲスチンの種類別に示します。表中のすべてのピルが問題なく処方できます。

表:低用量ピルに用いられるプロゲスチンと薬剤名

プロゲスチンの種類
薬剤名
第1世代
ノルエチステロン
オーソ、シンフェーズ、ノリニール、ルナベル
第2世代
レボノルゲストレル
アンジュ、トライディオール、トリキュラー
第3世代
デソゲストレル
マーベロン
第4世代
ドロスピレノン
ヤーズ



問  ホルモン補充療法に用いられる薬剤は問題ないでしょうか?

答  エストロゲン製剤は経口・経皮を問わず問題ありません。併用されるプロゲステロン製剤も問題ありません。ただしボセルモン®、メサルモン-F®などの混合ホルモン剤にはアンドロゲンが含まれますので、使用できません。


問  偽閉経療法は問題ないでしょうか?

答  子宮筋腫や子宮内膜症に対して行われる偽閉経療法に用いられるGnRHアゴニスト(スプレキュア®、リュープリン®など)は、広い意味では抗エストロゲン作用と言えますが、禁止表には掲載されていません。使用可能と考えられます。


問  不妊治療を行いながら競技を続けることはできますか?

答  クロミフェン(クロミッド®)とシクロフェニル(セキソビット®)は抗エストロゲン作用をもち、下垂体を刺激する結果、蛋白同化作用も促進するとされ、禁止物質に指定されています。アロマターゼ阻害薬であるレトロゾール(フェマーラ®)も禁止物質です。一方、注射剤ではFSH成分を主体とするゴナドトロピン製剤、hCG製剤が2005年まで男女を問わず禁止物質に指定されていましたが、2006年以降のWADA禁止表では「男性のみ禁止」と変更されました。女性アスリートに対する不妊治療が行いやすくなったといえます。


問  静脈注射も違反だと聞いています。手術の際の点滴や麻酔はどうすればいいでしょうか?

答  WADA禁止表では薬剤の投与経路として、薬剤の種類を問わず「静脈注射および6時間毎50mlを超える注射は禁止される」となっていますが、「正当な入院加療や診断の必要な場合は除外」されます。したがって救急医療、手術時の点滴、麻酔薬静注などは通常の患者と同一で問題ありません。TUE申請も必要ないと考えられます。


問  貧血の治療は通常通り行ってかまわないでしょうか?

答  経口鉄剤の処方は問題ありません。ただし静注は前項の通り「入院が必要なほどの」極度の貧血の場合に限るべきでしょう。中高生アスリートの一部に競技力の向上目的に鉄剤静注を希望する風潮があり、これに安易に応じるのは違反行為になる可能性があるので注意が必要です。輸血、エリスロポエチン製剤の投与は禁止となっています。救急の場合を除いて投与はできません。その場合でもTUE申請が必要です。持久的スポーツにおいてはもっとも厳しく検査が行われる分野であり、最近は不自然なヘモグロビン値の上昇が認められれば禁止物質薬物が検出されなくても違反を問われる事例が続出しています。


問  その他に産婦人科で処方される可能性のある注意すべき薬剤を教えて下さい。

答  エフェドリン作用のある麻黄が含まれる漢方薬(葛根湯、小青龍湯など)は違反を問われます。骨粗鬆症治療薬であるラロキシフェン(エビスタ®)、バゼドキシフェン(ビビアント®)も禁止物質です。若年アスリートの骨密度増加目的に使用することはできません。なお糖質コルチコイドの全身投与は違反ですが、口内炎や痔などに対して局所投与として用いる分にはかまいません。


問  ドーピング検査を受ける可能性のあるトップアスリートだけを注意していればいいのでしょうか?

答  ドーピング検査に協力する義務は「全ての競技者」に課せられています。すなわちトップアスリートに限らず、ジュニアやマスターズ、記録や成績、競技種目に関わらず対象となります。もちろん中学・高校の女子サッカー部員や女子バレーボール部員も対象であることをご理解ください。「プロ選手でないから」「高校生だから」という理由でドーピング防止規則を無視していいことにはなりません。実際には「競技会検査」はほとんどの国際大会と(国体などを含む)国内主要大会において行われます。また「競技会外検査」は世界ランキング上位者とその所属チームに対して行われています。



おわりに 

競技力の向上を目的とした意図的なドーピング違反は当然として、アスリート自身や処方医の無知に基づく「うっかりドーピング」がアスリートの人生を大きく損なう事例は枚挙にいとまがありません。不安があれば、WADAの禁止表や日本薬剤師会の「ドーピング防止ガイドブック」などを自ら調べる手間を惜しまないようにしましょう。


参考:WADAのウェブサイト http://www.wada-ama.org/

Quick Links 中の Prohibited List のボタンから、2014 Prohibited Listのダウンロード画面にとぶことができます。

2014年5月7日水曜日

関東インカレ出場選手

第93回関東学生陸上競技対校選手権大会。最後に標準突破記録を狙った4x400mRが残念ながら出場を逃し、以下の出場選手と決まった。全員入賞を目指そう。

男100m 竹内 優太(4年) 予5/16PM・準5/17AM・決5/17PM
男200m 竹内 優太(4年) 予5/24PM・準5/25AM・決5/25PM
      中山 雄太(4年)  
男4x100mR 金本 嘉久(6年)田中 尚道(5年)竹内 優太(4年)中山 雄太(4年)
                         忽滑谷 智紀(3年)・渥美 敬介(2年) 予5/16PM・決5/17PM
男やり投 大浜 安輝(3年) 5/16PM
男十種     中山 雄太(4年) 5/16-17
女10000m競歩 岡部 文子(4年) 5/24AM

5/16-17は熊谷スポーツ文化公園陸上競技場、5/24-25は日産スタジアムでの開催

2014年5月6日火曜日

埼玉医大陸上部には新人8名〜女子は充実

昨日の新人歓迎会で、医学部と保健医療学部合わせて8名の新入生を陸上部に迎えた。男子1名、女子7名。男子が少ないのが物足りないが、女子は、駅伝で東北大会出場者あり、リレーで北関東大会出場者あり、高校チャンピオンとリレーを組んでいた者あり、投擲の大英雄を父に持つ者ありと多士済々。それ以外にも、長距離・マラソンを志す者が2人いる。あながち来年あたり、6人揃えて駅伝出場も夢ではないかも。女子エースの岡部(4年)がいるうちに。

写真は「黒」一点、「目標は10秒70」頼むぞ石坂君!

2014年1月19日日曜日

ホルモン補充療法中に黄体ホルモンを内服しても消退出血がないときは?

女性アスリートの無月経に対してホルモン(エストロゲン)補充療法を行っていると、ときに黄体ホルモンを内服しても消退出血がなかったという報告を受けることがある。
すなわち、日々ディビゲル®やル・エストロジェル®のようなエストラジオール経皮吸収剤を塗ってもらいつつ、1〜2ヶ月に1回、10日間程度、黄体ホルモン(プロゲストン®やデュファストン®)を内服してもらい、「生理」をこさせるわけだが、当初その出血が必ずあったアスリートも、ときに出血が全くないことがあるというわけである。

そもそも黄体ホルモンを周期的に内服する目的は、エストロゲンだけが作用し続けると増殖しっぱなしとなる子宮内膜をときどき「洗い流す」ことによって、子宮内膜増殖症や子宮体癌を予防することにある。「黄体ホルモンを伴わないエストロゲン単独投与(unopposed estorgen)」は子宮体癌のリスク因子なのである。
黄体ホルモンを内服しても出血がないということは、内膜が大して厚くなっていないからと言えるので特に心配には及ばないが、内服している本人からすると不安に思うこともあるだろう。毎月の黄体ホルモン内服では消退出血がおこりにくいので、2ヶ月程度と少し間をあけて内服してもらうことでなるべく確実に出血が起こるように配慮することも多い。
内膜が厚くならないのはディビゲル®の効きが悪くなったと言うよりは、自前のエストラジオール分泌がほとんどない場合に起こりがちで、やむを得ないともいえる。そのために補充をしているのだから。
ただ黄体ホルモン内服の間隔を2ヶ月以上にすることの(子宮体癌予防に関しての)安全性」は、はっきりしていないので、たとえ出血がなくても少なくとも2ヶ月おきには黄体ホルモン内服を行っておくことをおすすめしたい。
そのうえで主治医と相談の上、採血を行って血中エストラジオール値を確認したり、子宮内膜の厚さを確認したり、エストラジオール製剤の種類を変更したり、何らかの対策をとるのがよい。

2014年1月17日金曜日

ヤーズの血栓症リスクについて

本日、厚生労働省が低用量ピル「ヤーズ配合錠」(バイエル薬品)について、2010年11月の販売以降、副作用とみられる血栓症 で3人が死亡したと発表した。利用者は延べ18万7千人にのぼり、バイエルに対し、添付文書に警告欄を設けて注意喚起するよう指示した、という報道があった。
現在ヤーズを内服しているため、心配になっている女性アスリートもいると思われる。

すでに昨年末に日本産科婦人科学会が低用量ピルの血栓リスクについて見解を発表している。
要点は、以下のとおりである。
・低用量ピルを服用していない女性の静脈血栓症発症のリスクは年間10,000人あたり1-5人であるのに対し、低用量ピル服用女性では3-9人
・静脈血栓症発症により、致死的な結果となるのは100人あたり1人で、低用量ピル使用中の死亡率は10万人あたり1人以下
・低用量ピル内服中に以下の症状を認める場合には医療機関受診の必要あり
A:abdominal pain C:chest pain H:headache E:eye / speech problems S:severe leg pain

私も現時点では上記のリスク評価に基づいて、メリットとリスクを勘案して処方をしている。
若年で非喫煙のやせ型のアスリートは一般より血栓リスクは低いと考えられるが、海外遠征時や脱水状態時などは、特に気をつけるべきと思われるので、処方時に水分摂取を意識するよう指導している。
また服用開始の最初の3ヶ月、特に最初の1ヶ月に血栓リスクが高いことも知られているので、数ヶ月以上内服を継続している女性にとってはリスクは低いと伝えている。

さて、昨年末の時点でヤーズの国内死亡例は2例までは判明していたはずだが、3例目が報告されたことから本日の厚労省の注意喚起に至ったものと考えらる。
ヤーズが他の低用量ピルに比べて血栓リスクが高いという疫学報告は、肯定されたり否定されたり一定の結果を見ていないが、発売後比較的早期に3例目の死亡報告が出たことからも、多少リスクは高い可能性がある。
一方、特に低体重の長距離ランナーにとって、ヤーズはエチニルエストラジオール量が少なく(20μg)、軽度の利尿作用を有するため、飲みやすく受け入れがいいというメリットもある。
したがって私自身、特に長距離ランナーに低用量ピルを処方する場合にはヤーズを推薦してきた。

報道に接してヤー ズに不安を感じる場合には、現時点での代替案としては、エチニルエストラジオール量が同じく20μgと少なく、(もし骨密度増加作用も期待している場合には)より有効である可能性のある 「ルナベルULD」という低用量ピルに変更する、という手がある。このルナベルULDは昨年秋に発売された。
低用量ピルにある程度体が慣れているアスリートにとっては、問題なく移行できると思う。


追加: ヤーズの発売元のバイエル薬品からも以下の注意喚起が公表された。
医療関係者向け ・ 患者向け