2011年3月23日水曜日

「抗エストロゲン剤」がドーピング禁止物質である理由

2011年のWADA禁止物質リストでは、抗エストロゲン剤関係では以下の3種が指定されている。すなわち
・アロマターゼ阻害薬
・タモキシフェン、ラロキシフェンなどのSERM
・クロミフェンなど
である。
アロマターゼはアンドロゲンからエストロゲンへの転換酵素なので、その阻害薬(閉経後乳癌などで用いられる)は体内アンドロゲン量が増やす方向に働くと考えられる。だから禁止。これはわかる。
クロミフェンやセキソビットなどの排卵誘発剤は、エストロゲンに拮抗することでネガティブ・フィードバックを利用して卵胞刺激ホルモン(FSH)などの下垂体ホルモン分泌を高める働きがある。男性では下垂体ホルモン増加により蛋白同化作用が亢進し、実際セキソビットはボディビルダーに用いられていたという経緯がある。しかし「女性でも」この蛋白同化作用が亢進するのかどうかはよくわからない。
かつてはHCGやLHなどの排卵障害の患者に対して排卵をさせるために用いられるペプチドホルモン剤も「男女両方で」禁止されていたのが、現在は「男性のみ」禁止と変更されている。クロミッドやセキソビットなどの抗エストロゲン排卵誘発薬も将来「女性でなら」OKとなる可能性はあるかもしれない。
さらに、SERMが禁止薬物である理由は私にもわからない。SERMという薬は、通常のエストロゲンが体全体に働くのに対し、ある臓器にだけに選択的に働くのが特長だ。すなわち子宮や乳腺などのエストロゲンが働くことで癌ができやすい臓器には抗エストロゲン作用を示し、骨や血管などには有用なエストロゲン作用を発揮する。すなわち乳癌などを抑制しつつ骨粗鬆症や動脈硬化などの予防に繋がる物質というわけだ。少なくともこれらの物質は男性化作用はない(ことになっている)。あるいは蛋白同化作用の報告があるのか?
多くの閉経前乳癌患者の術後療法にとりいれられている重要な薬物なだけに、乳癌患者がアスリートであるためには、この薬が使えないことになり大問題である。今後の動向が注目される。

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