2012年4月24日火曜日

レプチン製剤の可能性

レプチンというホルモンが運動性無月経に関連して、面白い。
レプチンは最初に「肥満防止物質」として体内、特に脂肪組織で生成されていることが確認された。すなわち、食事を摂取して満腹になってくるとこのレプチンが分泌されて、食欲を抑える働きをする。人間が体脂肪を蓄えるとレプチンの分泌量が増えて食欲が抑えられて、人間の体重や体脂肪は一定に保たれる、そういう働きをすることがわかっていた。
このレプチン、どうやら視床下部性無月経(運動性無月経も一応ここに含まれる)の女性においてその働きが低下しているらしいことがわかってきた。そうなると無月経の女性にレプチンを投与すると無月経が治るのではないか?
実際、10人の視床下部性無月経患者にレプチンを36週間にわたって投与すると7割くらいで月経が再開する。レプチンのプラセボ(偽薬)を投与した群では3割しか再開しなかったから、有意な差がある、という結論になっている。この研究は二重盲検と呼ばれる、薬を処方する医師側も被験者側も、レプチンなのか偽薬なのかわからない状態で行われたので、結論には価値がある。
ところがこのレプチンの薬、メトレレプチンというのだが、毎日1回うたなければいけない注射薬なのだ。これを36週間も注射し続けるのだから、たいへんである。しかも体重減少の副作用がある。この研究でも50kg程度の比較的痩せ型の被験者が調査期間中に3〜4kg体重が減って、メトレレプチンの投与量を減らされたり調節を受けている。
だから視床下部性無月経の中でも神経性食思不振症(拒食症)などの患者には、危険な薬であるといえる。
ただ考えようによっては、無月経の長距離ランナーなどにとっては減量しつつ無月経が回復するとしたら、これはいいかもしれない(極端な減量はもちろん危険なので、この発想に全面的に僕が賛成しているわけではないが)。この研究では無月経回復とともに骨形成も促進する可能性が示されているから、いいことだらけ、とも言える。
(以上、Proc Natl Acad Sci U S A. 米国科学アカデミー紀要 2011 Apr 19;108(16):6585-90. )
実際アメリカでは、メトレレプチンを高度肥満に対する痩せ薬として開発が開始された。日本では武田薬品が共同開発に参加している。ところが昨年、この開発が中止された。なんでも理由は、レプチン抵抗性を示す被験者が複数現れたから、ということのようだ。このレプチン抵抗性とは、レプチンを投与しても効かなくなってしまった状態で、例えば高度肥満の人はこの状態の可能性がある。
したがって、残念ながらこのレプチンいまだ製剤化されていない。長距離ランナーに減量+無月経改善+骨量改善目的に使おうという試みもなされていない。製剤化された場合、ドーピング禁止物質リストの対象になるかどうか、議論が必要なところであろう。高度肥満でないランナーがさらなる減量による競技力向上のために使用するとなれば問題だが、無月経の治療薬とするならば、特に蛋白同化作用は示さないようなので、OKかもしれない。
もし注射薬でなく内服のレプチンが登場したら・・・あっという間に痩せ薬として広まるだろう。

0 件のコメント: