昨日も少し触れたが、この4月に国際陸上競技連盟(International Association of Athletics Federations、IAAF)は、女子中距離のキャスター・セメンヤ(Caster Semenya、南アフリカ)選手の性別疑惑を発端とする騒動を受け、女子選手の新しい資格規定を5月1日から導入すると発表した。Hyperandrogenism(高アンドロゲン状態)の女子選手に対する規定を採用するのはまだ他競技には例がなく、IAAFが初めてらしい。
セメンヤ選手は、第12回世界陸上ベルリン大会の女子800メートルで優勝した後に実施された性別検査の結果が漏れ、「両性具有」であったと報道されている。約1年後の2010年7月、セメンヤは女子選手として競技することが認められ、復帰した。
IAAFの作業部会と国際オリンピック委員会(International Olympic Committee、IOC)の医療委員会によって18ヶ月間に渡って精査された新規定は、5月1日から導入された。
この新規定は以下のように要約される。
①男女の競技能力の差は主にアンドロゲン値の差に由来するので、陸上競技は今後とも男子競技と女子競技に分けて行われる。
②法的に女性と認められている高アンドロゲン女性は、血清アンドロゲン濃度が男性レベルよりも低いか、あるいは血清アンドロゲン濃度が男性レベルと同等であってもアンドロゲン抵抗性で高アンドロゲンによる競技力優位性がなければ、女性競技に参加できる。
③IAAFはすでにExpert Medical Panelを設置しており、疑義のあった競技者について検討し参加資格についての意見をもらうこととしている。
④3段階の検査プロセスが設定され、すべてのデータがExpert Medical Panelに届けられる。
⑤すべての検査プロセスは秘密裏に行われ、Expert Medical Panelに対しても競技者は匿名とする。
⑥規則に適合しない、もしくは資格認定プロセスを拒否する女性競技者は女性競技に参加できない。
①はまあ誰も異存がないであろう。
②は従来の考え方を追認しているとしてよい。すなわちアンドロゲン不応症の完全型であれば、何の問題もなく女性競技に参加可能。不全型であれば(セメンヤ選手もこれであった可能性が高い)、高アンドロゲンによるメリットをどれくらい享受しているかによって判定されるということである。少なくとも性腺除去手術が条件として課されるのではないだろうか。
④この検査プロセスというのが今回の発表の目玉であろう。詳細は省くが、その3段階目として世界6箇所にIAAFが認定した専門機関において遺伝学的検査を含む詳細な検査が施行され、最終診断と治療法の提案までがなされることになる。
⑤はセメンヤ騒動の反省から、匿名性を強く宣言したものと思われる。
⑥により、これらの規定がドーピング規定と同様に出場停止を含んだ罰則付きの規定となったことがわかる。従来は判定結果はIAAFの医事委員会から本人への勧告あるいは医学的アドバイスのレベルにとどまっていたが、これで強制力をもったものとなったわけだ。
IAAFは同時に、男性から女性への性別適合手術を受けた選手の資格についても検討を重ねていたことを発表しているが、その内容は昨日書いたとおり。
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