ベルリン世界選手権女子800mの優勝者に「性別疑惑」が持ち上がっているという件に関して、昨日来テレビ局からコメントを求められている。
「今行われているという性別検査はどういうものなのか」というのが質問の主旨である。質問してくる側が誤解している点、間違いやすい点(これはすなわち一般視聴者の誤解と共通すると思うが)をまとめておく。
まず、「性別検査」とはもはや大会に参加する全女性競技者を対象とした「一律の」「スクリーニング的な」性別検査ではないということだ。そういう一律性別検査は1996年のアトランタ五輪を最後にオリンピックでも行われていない。なぜ中止になったのか。アトランタでは3387人の女性競技者に対して行われたDNA検査で、Y染色体(の一部)を有すると判定されたのが8名、そのうち7名がアンドロゲン不応症、1名が5α脱水素酵素欠乏症という先天的な性分化異常症であって、結局は全員が女性競技への参加を許されたという経緯がある。
ただし「個別の」性別検査では現在でも行われることがあって、「疑問を持たれた選手」に対して個別に世界陸連または大会組織委員会の指示でなされる。「疑問」とは単に「強すぎる」とか「急にタイムを伸ばした」ということではなく、例えばドーピング検査のときに女性係官が排尿を見守った際の所見だとか、更衣室で他の選手が確認した肉体的特徴などである。
次に、性別検査でクロと判定されるのは2つの場合があること。医学的に純粋な男性が、偽って、または何かの事情で女性として社会的に育てられて、女性競技にまぎれこんでいる場合と、医学的にも男女の判定に注意を要する性分化異常症の場合だ。メダルを剥奪されたりするのは基本的には前者の「偽っていた」場合がほとんど。アトランタ五輪の例のように、性分化異常症の場合は(男性ホルモンがどの程度作用しているかにもよるが)出場が認められることが多い。ただしアンドロゲン不応症の「不全型」(精巣を有し、一部男性ホルモン作用が現れている場合)では、次の国際競技会までに精巣除去手術を受けることを義務付けることになるだろう。
最後に、そうした「個別の」性別検査の主目的は、決してその選手の「性別」を決定することではないということ。主目的は「男性ホルモンの利点を享受しつつ女性競技に出場することはフェアではないので、女性競技への参加資格があるかどうかのみを決定する」ことにある。したがってある選手が仮に女性競技から排除されたとしても、その選手が社会的ないしは心理的に女性として生きてきて、今後もそれを望むのならばそれを必ずしも否定するわけではないということになる。
けっこう難しい話だ。単に「性染色体を調べてXYだったら男でアウト、XXなら女だからセーフ」というものではないのである。
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